東海テレビ「土ドラ」10周年|歴代ドラマ一覧と『その女、ジルバ』『おっパン』『再生のウズメ』

【土ドラ10周年】東海テレビ「土ドラ」10年の系譜|ジルバの6.4%からおっパン映画化、そして『再生のウズメ』へ
この記事の結論
・東海テレビの「土ドラ」は、2016年4月2日スタートの『火の粉』から始まりました。2026年でちょうど10年です。
・その前身は、1964年から2016年3月まで続いた昼ドラ(51年半)。全国ネットのドラマ枠を、名古屋の局が中身まで作っています。
・到達点は『その女、ジルバ』の全話平均6.4%(「オトナの土ドラ」枠の最高タイ記録)と、日本民間放送連盟賞の優秀賞。深夜11時40分開始の枠としては異例の数字です。
・10月3日から、その系譜に『再生のウズメ』が並びます。10年分の文脈を知ってから見ると、第1話の意味が変わります。
昼ドラが終わった日、土ドラが始まった
東海テレビは、1964年5月から2016年3月まで、月曜から金曜の13時台に昼ドラを全国放送してきました。半世紀、51年半です。それが2016年4月の改編で幕を閉じ、同じ年の4月2日に始まったのが、土曜の夜へ移ったこの枠でした。
第1作は『火の粉』。ユースケ・サンタマリアさん主演で、人が心の奥に抱える狂気を描いた心理サスペンスです。土ドラの最初の1本が、ほのぼのとした人情話ではなく、「人の心の暗い部分」だったことには意味があると思っています。
枠の名前も動いています。2016年4月2日から2021年9月25日までは「オトナの土ドラ」、2021年10月からは「土ドラ」に変わりました。だから「土ドラ10周年」と「オトナの土ドラ」は、同じ枠の10年を数える言い方です。大人を名乗るのをやめた瞬間でもあります。
この構造は、全国のテレビ局を見渡しても珍しい。全国ネットで流れるドラマを、名古屋のローカル局が企画から制作まで担っているわけです。制作の視点が東京にないぶん、主役に選ばれるのは都市のトレンドの中心にいる人ではありません。むしろ、社会の速度から少し落ちてしまった人が主役になります。この傾向は、10年を通してほとんどぶれていません。
昼ドラは、愛憎劇の代名詞として全国に知られた枠でした。平日の午後1時台に、毎日30分。家にいる人が、家事の合間に見る時間帯です。ここで描かれてきたのは、嫁姑、浮気、遺産、復讐といった「昼の修羅場」でした。
その枠が2016年3月31日で終わり、土曜の夜へ移ったとき、変わったのは時間帯だけではありません。見る人は「家にいる人」から「1週間を終えた人」に変わり、テーマは「修羅場」から「再出発」へ移りました。10年の系譜を読むとき、私はこの転換をいちばん大きい出来事だと思っています。
| 放送 | 作品 | 主演 | この枠での位置 |
|---|---|---|---|
| 2016年4月 | 火の粉 | ユースケ・サンタマリア | 記念すべき第1作 |
| 2021年1月 | その女、ジルバ | 池脇千鶴 | 全話平均6.4%で枠最高タイ記録 |
| 2022年1月 | おいハンサム!! | 吉田鋼太郎 | 配信の初回再生で歴代1位の記録 |
| 2024年1月 | おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか! | 原田泰造 | 民放連盟賞 優秀賞→映画化 |
| 2026年10月 | 再生のウズメ | イモトアヤコ | 10年目の節目・連続ドラマ初主演 |
こうして並べると、この枠は「当てにいく」より「残る」ほうを選んできたのが分かります。10年前の第1作が『火の粉』。名前からして、ほのぼの路線ではありません。
10年で並んだ作品たち
東海テレビ公式サイトの「土ドラ10周年」特設ページには、歴代作品が一覧で並んでいます。並べて読むと、この枠の守備範囲の広さが見えてきます。
公式一覧に並ぶ主な作品
火の粉/個人差あります/僕の大好きな妻!/クロステイル〜探偵教室〜/准教授・高槻彰良の推察(Season1・Season2)/おいハンサム!!(1・2)/顔だけ先生/三千円の使いかた/自由な女神/グランマの憂鬱/テイオーの長い休日/ギフテッド(1・Season2)/あたりのキッチン!/おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!/嗤う淑女/バントマン/最高のオバハン中島ハルコ(シリーズ)/ミッドナイト屋台(シリーズ)/浅草ラスボスおばあちゃん/介護スナックベルサイユ/横浜ネイバーズ/時光代理人
※ 東海テレビ「土ドラ10周年」特設ページの一覧より(2026年9月時点)。
この並びを見て面白いのは、「人生の再出発」一色ではないことです。心理サスペンス(火の粉)、刑事もの、探偵もの、介護スナック、時代を飛び越える話、中国アニメの実写化まで入っている。
ただ、どの作品にも共通する姿勢があります。「社会の多数派から少しはみ出した人」を、笑いものにも救済対象にもしない。10年かけて、この距離感をずっと磨いてきた枠だと思います。
公式の一覧に並ぶ過去作は、25本(2026年9月時点)。このほかに、次回作『再生のウズメ』が控えています。10年でこの本数を、全国ネットの枠として作り続けてきた計算になります。1年あたりにすると2〜3本のペースです。
タイトルだけ拾っても、“パンツ”が1本、“オバハン”が1本、“ラスボスおばあちゃん”が1本。守備範囲の広さだけは伝わると思います。
題材も広がりました。家族と食卓(おいハンサム!!)、祖母と孫(グランマの憂鬱)、介護と夜の街(介護スナックベルサイユ)、特殊な能力をめぐる話(ギフテッド)、時代をまたぐ話(時光代理人)。作品名を並べるだけで、同じ話を10回やっている枠ではないと分かります。
『その女、ジルバ』——6.4%と、民放連盟賞
この枠の到達点は、2021年1月9日にスタートした『その女、ジルバ』です。主演は池脇千鶴さん。原作は有間しのぶさんの漫画で、第23回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した作品でもあります。
物語は、大手百貨店の物流倉庫で働く40歳の女性が、平均年齢70歳の熟女バーで働き始める話です。40歳の誕生日に祝ってくれるのは通販サイトのクーポンメールだけ、しかも元婚約者が上司として職場に現れる。そこから、宝くじに導かれるようにして「OLD JACK & ROS...」というバーへ入っていく。
原作は小学館『ビッグコミックオリジナル』連載で、第23回手塚治虫文化賞のマンガ大賞(朝日新聞社主催・2019年)を受けています。ドラマは池脇千鶴さんが9年ぶりの連続ドラマ主演を務めました。ドラマでは1人2役にも挑んでいます。
| 年 | 出来事 | 作品 |
|---|---|---|
| 2019 | 第23回手塚治虫文化賞 マンガ大賞(原作) | その女、ジルバ |
| 2021 | 全話平均6.4%・「オトナの土ドラ」枠最高タイ記録 | その女、ジルバ |
| 2021 | 日本民間放送連盟賞 優秀賞(テレビドラマ部門) | その女、ジルバ |
| 2024 | 日本民間放送連盟賞 優秀賞/映画化 | おっさんパンツ |
| — | 配信の初回再生が東海テレビ制作ドラマで歴代1位 | おっさんパンツ |
この作品の数字が、全話平均視聴率6.4%。これは「オトナの土ドラ」枠の最高タイ記録になりました(中日新聞 2021年3月15日)。よる11時40分に始まるドラマの数字としては、明らかに異例です。
そしてもうひとつ、2021年の日本民間放送連盟賞では、番組部門のテレビドラマで優秀賞を受けています。審査の講評には、こう書かれていました。
「仕事はできるが、孤独で親離れできない“痛い”ヒロインを演じる主役の演技力が、ドラマに説得力を与えている」
※ 2021年日本民間放送連盟賞 番組部門テレビドラマ 優秀賞の審査講評より(東海テレビ『その女、ジルバ』)
この一文が、この枠の性格をいちばんよく言い当てています。「かわいそうな人」ではなく「痛い人」を主役に置く。視聴者に同情を強要せず、しかし突き放しもしない。6.4%という数字は、この距離感が深夜の視聴者に届いた証拠だと思います。
『おっパン』は映画になり、配信でも歴代1位を取った
2024年1月期に放送された『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(通称おっパン)も、この系譜の外側にある作品ではありません。世間の古い常識で凝り固まった中年男が、アップデートしていく話です。
この作品は、2024年日本民間放送連盟賞の優秀賞を受賞し、映画化まで果たしました。さらに東海テレビ公式のトピックスには、配信の再生回数が東海テレビ制作ドラマの初回放送として歴代1位になったと書かれています(2022年1月放送『おいハンサム!!』初回の約78万回を超えた、と)。
タイトルに“パンツ”と入った深夜ドラマが、民放連盟賞を取り、映画になった。10年というのは、そういうことです。
ここで確認しておきたいのは、受賞と映画化が同じ枠から2回出ているという事実です。ジルバ(2021年)とおっパン(2024年)。「地味な深夜枠」という印象は、もう10年前のものだと言っていい。
この10年でもうひとつ変わったのは、見られ方です。公式の作品一覧を見ると、ほぼすべての作品に配信サービスのリンクが並んでいます。放送で見逃しても、あとから追える。おっパンのように、配信の再生回数が東海テレビ制作ドラマの歴代1位になる例まで出ました。
よる11時40分という時間帯は、リアルタイムで見る人にとって「1週間の終わり」です。配信は、その時間に起きていられない人にもこの枠を開きました。数字が取れる枠になった背景には、この視聴環境の変化もあるはずです。
10年かけて、同じ問いを掘ってきた
ここからは、10年分を並べてみて見えたことを書きます。
ジルバとウズメは、どちらも40歳の女性が主人公です。ただし、つまずいた理由が正反対です。ジルバはリストラ——会社都合で、外から人生が止められた。ウズメは12年間のひきこもり——自分で扉を閉めて、内側から出られなくなった。
| その女、ジルバ(2021) | 再生のウズメ(2026) | |
|---|---|---|
| 主人公 | 40歳。大手百貨店の物流倉庫 | 40歳。元子役、ひきこもり歴12年 |
| つまずいた理由 | リストラ(外から止められた) | 自分で扉を閉めた(内側から出られない) |
| 再出発の現場 | 平均年齢70歳の熟女バー | 便利屋「救ちゃん」の代行業務 |
| 共通点 | 40歳と再出発がセット。周りも傷を抱えている | 同じ |
この違いは大きいと思います。外的な挫折を描くほうが、視聴者にはずっと優しい。理不尽な目に遭った人が立ち上がる話は、誰が見ても応援できる。ところが、自分で閉じた扉を自分で開ける話は、共感より先に居心地の悪さが来ます。
土ドラは10年かけて、この「応援しにくい主人公」のほうへ踏み込んできました。ジルバで6.4%を取り、おっパンで映画化まで行き、その先にウズメを置いた。数字を取れる枠になったから、居心地の悪い題材を全国に流せるようになった——そう読むと、10年の意味がはっきりします。
そして、この枠の主人公は自分だけが変わるわけではありません。ウズメの周りにいる「助ける側」も、市役所を辞めた過去、家族との距離、企業人からの転身など、それぞれに抱えています。助ける人と助けられる人を、最初から分けない。ジルバのバーも、おっパンの会社も、同じ作りでした。
名古屋発であることの意味
東海地方に住んでいる人にとって、この枠には地味ですが確かな意味があります。
ひとつは、全国ネットの番組を、地元発の視点で先に押さえられることです。制作局が名古屋にあるので、情報の出どころが最初から地元側にあります。
もうひとつは、描かれる「再出発」が名古屋の生活実感に近いこと。派手な逆転劇ではなく、仕事や人との関わりを通じてじわじわ回復していく過程です。東京の流行を地方で受信するのではなく、自分の街で作られた番組が全国に届いている。この感覚は、地元に暮らす人間だけが持てるものです。
放送は毎週土曜、よる11時40分から。東海テレビで見れば時間差はありません。系列局の編成で時間がずれる地域があるので、岐阜・三重の方はお住まいの局の編成を確認しておくと確実です。
10月3日、その系譜に『再生のウズメ』が並ぶ
2026年10月3日(土)よる11時40分、10年目の節目に始まるのが『再生のウズメ』です。イモトアヤコさんが連続ドラマ初主演を務めます。
原作は天堂きりんさんの漫画(祥伝社『FEEL YOUNG』連載中)。元子役の田村ウズメ40歳が、母の依頼でやってきた便利屋「救ちゃん」の代表・興梠に拾われ、依頼人の代わりを演じる仕事を通して、止まっていた人生を動かし始める話です。単行本は3巻まで刊行され、4巻が10月8日発売予定。初回から5日後に、続きが本屋に並びます。
10年分の系譜を知ったうえで第1話を見ると、注目する場所が変わります。母が便利屋を呼ぶ瞬間——あれは、ジルバで言えばリストラを告げられる場面と同じ「人生が外から動かされる瞬間」です。ここから10年目の物語が始まります。
よくある質問
- Q. 土ドラはいつ始まった?
- 2016年4月2日スタートの『火の粉』が第1作です。前身の昼ドラは1964年5月から2016年3月まで続きました。
- Q. 「オトナの土ドラ」と「土ドラ」は違う枠?
- 同じ枠です。2016年4月2日から2021年9月25日までが「オトナの土ドラ」、2021年10月からが「土ドラ」という枠名です。
- Q. 放送時間は?
- 毎週土曜 よる11時40分から深夜0時35分まで、東海テレビ・フジテレビ系です。
- Q. 過去作は見られる?
- FODなどの配信サービスで取り扱いがある作品があります。最新の配信状況は各サービスの公式サイトでご確認ください。
- Q. 10周年の次の作品は?
- 2026年10月3日スタートの『再生のウズメ』です。
おわりに
10年という区切りで見ると、この枠が立ててきた問いはひとつに収まります。「一度つまずいた40代は、どこからやり直せるのか」。
ジルバが6.4%という数字でそれに答え、おっパンが映画という形で外へ出ていき、2026年のウズメがその続きを担当します。派手さはありませんが、全国ネットの枠が10年同じ問いを掘り続けているのは、テレビの歴史の中でもそう多くないことです。
土曜の深夜に「何歳からでもやり直せますよ」と10年言い続けてくる枠は、なかなか意地が悪い。翌週のことを考えている時間帯に、いちばん効く言葉を置いているからです。
10月3日の夜、テレビをつけてみてください。もし第1話が「自分のことみたいだ」と感じたら、それは名古屋の制作現場が10年かけて磨いてきた狙いが、あなたに届いたということです。
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