不動産管理会社の決算前対策|一括償却で設備投資を経費化する考え方

これから紹介するのは、決算前のある火曜日に行われた、架空の不動産管理会社「○○ホーム」の社内会議の様子です。
⚠️ この会議は架空のものです。登場する会社・人物・金額はすべて説明のための一般例です。ただし、会議で出てくる7つの失敗パターンは、実際の不動産管理会社でよく起きることです。
この記事では、架空の議事録を読みながら、
- 一括償却・全額損金の使い分け方
- 決算対策でやりがちな7つの失敗パターン
- 不動産管理会社ならではの決算前の視点
を、実務目線で身につけていただけます。それでは、議事録風にどうぞ。
登場人物と会社プロフィール

※以下はすべて架空の設定です。
| 🏢 ○○ホーム 会社概要(架空) | |
|---|---|
| 管理戸数 | 約350戸 |
| 社員数 | 8名(社長・営業2名・管理3名・経理1名・事務1名) |
| 売上 | 約2億4,000万円 |
| 今期利益見込み | 約1,200万円 |
| 普通預金 | 約2,100万円 |
| 来期の方針 | 管理戸数500戸目標・新拠点出店を検討中 |
| 出席者 | 役割 |
|---|---|
| 佐藤社長 | 代表取締役 |
| 田中 | 営業部長 |
| 鈴木 | 管理部長 |
| 中村 | 経理担当 |
| 山口先生 | 顧問税理士(外部) |
議事録:○○ホーム 決算対策会議

2月某日 火曜 14:00〜16:00 ○○ホーム 会議室
14:00 今期の数字共有
中村(経理):「では、今期の数字をご報告します。売上2億4,000万円、利益見込みは1,200万円です。昨年より管理戸数が増えたこと、売買仲介の手数料が大きく入ったことが要因です。」
佐藤社長:「思ったより残るね…。山口先生、税金はどれくらいになりそうですか?」
山口先生(税理士):「ざっくりですが、このままだと法人税・住民税・事業税で350万円前後の見込みです。」
佐藤社長:「……。打てる手、ありますか?」
14:10 失敗パターン①「全額損金で一気に落とす」発想だけで動く
田中(営業部長):「社長、節税商品の電話、最近すごく増えてるんですよ。『全額損金で350万円分の節税ができます!』とか。」
佐藤社長:「うちもさんざんかけられてる。即時償却とか、全損保険とか…」
🚨 山口先生:「ちょっと待ってください。全損保険、つまり全額損金タイプの法人保険は、2019年の通達改正で実質的に封じられています。今でも『全額損金になります』というセールスがありますが、現行の制度では基本的に成立しません。もし提案を受けたら、必ず私に見せてください。」
佐藤社長:「やっぱりそうか…。じゃあ、何で動くべきなんですか?」
山口先生:「まずは、自社で本当に必要な設備投資から考えましょう。」
14:20 失敗パターン②「経費にしやすそうなものを買う」発想
鈴木(管理部長):「管理部門として、欲しい設備はいくつかあります。タブレット、PC、写真管理用の端末、現場確認用のカメラ。」
田中(営業部長):「営業も、商談用モニターと提案用PCがほしいですね。」
佐藤社長:「じゃあ、全部買おう。経費にもなるし。」
🚨 山口先生:「社長、ちょっと待ってください。『経費にしやすいから買う』という発想は、節税の罠です。本当に業務改善につながる支出か、ひとつずつ精査しましょう。」
佐藤社長:「うっ、すいません…つい。」
14:30 設備投資の優先順位を決める

山口先生:「鈴木さん、田中さん、欲しい設備を業務改善効果の大きい順に並べてもらえますか?」
鈴木(管理部長):「えーと、まず1番は現場確認用タブレットですね。今は紙のチェックシートで、写真撮影は別端末。これを1台にまとめたい。2番は写真管理用ノートPC。古いPCで写真整理に時間がかかってます。」
田中(営業部長):「営業は、商談用モニターが最優先です。物件資料を大きい画面で見せられると、商談の温度が違うんです。」
山口先生:「では、それぞれ価格帯はどれくらいですか?」
鈴木(管理部長):「現場用タブレット 1台14万円 × 3台で42万円。写真管理用PC 18万円 × 2台で36万円。合計78万円です。」
田中(営業部長):「商談用モニター 19万円 × 2台で38万円。提案用ノートPC 17万円 × 2台で34万円。合計72万円です。」
中村(経理):「合計で150万円ですね。」
14:45 失敗パターン③「請求書1枚=1単位」で判断する
中村(経理):「先生、これって全部一括償却で処理できますよね?」
🚨 山口先生:「ストップ。ここが大事です。1単位ごとに金額判定する必要があります。請求書1枚いくらかではなく、1台あたりいくらか、です。」
中村(経理):「……はい、すみません。1台あたり20万円未満なら、一括償却の対象になりますね。」
山口先生:「そうです。今回の備品は、すべて1台あたり20万円未満なので、一括償却 or 中小特例の選択肢があります。」
14:55 一括償却と中小特例、どっちを選ぶ?

佐藤社長:「先生、一括償却と中小特例って、どう違うんですか?」
山口先生:「ざっくり言うと、こうです。」
| 項目 | 一括償却 | 中小特例 |
|---|---|---|
| 損金算入 | 3年均等 | 取得時に全額 |
| 今期効果(150万円の場合) | 約50万円 | 150万円(全額) |
| 来期以降 | 残り2年分の損金が残る | 0円 |
| 償却資産税 | 対象外の場面あり | 対象になることが多い |
| 年間上限 | なし | 合計300万円 |
| 向いている状況 | 利益が安定・来期も続く | 今期だけ利益が突出 |
佐藤社長:「やっぱり、全額落としたほうが得じゃないですか?」
山口先生:「短期的にはそう見えます。でも、考えてほしいことがあります。」
15:05 失敗パターン④「短期だけ見て、来期以降を見落とす」
山口先生:「社長、来期の利益見込みはどうですか?」
佐藤社長:「管理戸数を増やしたいので、来期も同じくらい利益は出る予定です。」
🚨 山口先生:「では、こう考えてみてください。全額損金で今期に150万円落とすと、来期以降の損金は0円です。一括償却なら、来期・再来期にも約50万円ずつ損金が乗ります。3年間トータルで見ると、節税効果はほぼ同じ。ただし、利益の分布が違うのです。」
佐藤社長:「なるほど…来期も同じ利益が出るなら、一括償却で均したほうが安心ですね。」
山口先生:「そうです。さらに償却資産税の面でも、一括償却のほうが負担が軽くなる場面があります。」
15:15 失敗パターン⑤「経営セーフティ共済を知らない」
山口先生:「設備投資だけでは、利益1,200万円の圧縮は厳しいです。経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)、検討されたことはありますか?」
佐藤社長:「名前は聞いたことあるけど、ちゃんと理解してないかも…」
🚨 山口先生:「年間240万円まで掛金として全額損金、累計800万円まで掛けられます。取引先の倒産時に貸付制度もあり、不動産管理会社のような業種と相性が良いです。※解約時に課税対象になるので、出口設計は必要です。」
佐藤社長:「年間240万円、しかも全額損金…これは大きいですね。」
15:25 失敗パターン⑥「不要資産を放置している」
山口先生:「もうひとつ、ぜひやってほしいのが不要資産の整理です。御社の倉庫や事務所に、使っていない資産はありませんか?」
鈴木(管理部長):「あります…使っていない古い営業車が2台、廃機材が何点か。あと、リースアップした撮影機材も。」
🚨 山口先生:「除却・売却すれば、簿価分を一気に費用化できる場合があります。さらに、償却資産税の負担も減らせます。」
佐藤社長:「買うばかりが節税じゃないんですね。」
山口先生:「そうです。捨てる節税、整理する節税も、立派な選択肢です。」
15:40 失敗パターン⑦「社長個人の所得を見落とす」
山口先生:「最後に、これは絶対に押さえてほしい点です。社長、役員報酬はいくらに設定されていますか?」
佐藤社長:「月100万円、年1,200万円です。」
山口先生:「では、翌年6月の住民税と社会保険料、試算したことありますか?」
佐藤社長:「……ないです。」
🚨 山口先生:「法人で節税できても、社長個人の手取りが減ってしまうケースがあります。法人と個人を同じテーブルで見ないと、本当の意味での節税にはなりません。次回、個人の所得設計も一緒にやりましょう。」
佐藤社長:「目から鱗です…」
15:55 会議のまとめ:今期の動き方
山口先生:「では、今期の方針をまとめます。」
| 項目 | 金額 | 処理方法 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 管理部の設備(タブレット・PC) | 78万円 | 一括償却 | 1台20万円未満 |
| 営業部の設備(モニター・PC) | 72万円 | 一括償却 | 1台20万円未満 |
| 経営セーフティ共済 | 240万円 | 全額損金 | 年間上限240万円 |
| 不要資産の除却 | 約50万円(簿価) | 損金算入 | 除却損 |
| 合計の損金インパクト | 約440万円 | — | — |
佐藤社長:「全額損金で全部一気に落とす、という発想じゃなくて、組み合わせで効かせるんですね。」
山口先生:「そうです。今期の利益1,200万円のうち、約440万円分を整えて、残りはきちんと税金を払う。来期以降の損金も残しつつ、現金もしっかり残す。バランスの取れた決算対策になります。」
佐藤社長:「ありがとうございます。次回、個人の所得設計もよろしくお願いします。」
山口先生:「了解しました。」
16:00 会議終了
会議から学ぶ「7つの失敗パターン」早見表

架空の会議に出てきた7つの失敗パターンを、改めて整理しておきます。
⚠️ 失敗1(14:10の場面):「全額損金で一気に落とす」発想だけで動く【制度誤認リスク】
全損タイプの法人保険は、現行制度では基本的に成立しません。「全額損金になります」と言われたら、まず制度名を確認しましょう。
⚠️ 失敗2(14:20の場面):「経費にしやすそうなものを買う」発想【現金流出リスク】
業務改善につながらない支出は、ただ現金が減るだけ。「経費になる」より「業務に効く」を優先しましょう。
⚠️ 失敗3(14:45の場面):「請求書1枚=1単位」で判断する【判定ミスリスク】
判定は1単位ごと。請求書の合計額ではありません。
⚠️ 失敗4(15:05の場面):「短期だけ見て、来期以降を見落とす」【3年設計ミスリスク】
全額損金 vs 一括償却は、3年トータルで考える視点が必要です。
⚠️ 失敗5(15:15の場面):「経営セーフティ共済を知らない」【制度活用漏れリスク】
不動産管理会社のような業種なら、ぜひ検討したい制度です。出口設計とセットで活用しましょう。
⚠️ 失敗6(15:25の場面):「不要資産を放置している」【簿価放置リスク】
買うばかりが節税ではありません。整理する節税も大切です。
⚠️ 失敗7(15:40の場面):「社長個人の所得を見落とす」【手取り減リスク】
法人と個人をセットで見ないと、本当の節税になりません。
不動産管理会社が決算前に持っておきたい「4つの視点」
会議の議事録から見えてきた、不動産管理会社ならではの決算対策の視点を整理します。
🔵 視点1:管理戸数の拡大と、設備投資はセットで考える
- 管理戸数が増えると、現場確認・写真管理・入退去対応の業務量が増える
- 一括償却ゾーンのタブレット・PCで、管理担当1人あたりの処理量が変わる
- 節税効果より、利益率を守る投資として位置づける
🟢 視点2:売買仲介と賃貸管理の利益のバランス
- 売買仲介は単発で大きく乗る
- 賃貸管理はストック型で安定
- 利益の出方が違うので、節税策の組み方も変える
🟠 視点3:来期の拠点出店・人員拡大を見据える
- 新拠点出店なら、来期前半に多額の現金が必要
- 今期に全額落とすより、現金温存を優先する選択肢も
- 「節税の年」と「投資の年」を分けて設計する
🟣 視点4:法人と個人の所得バランス
- 社長個人の役員報酬・退職金・配当の設計
- 翌年6月の住民税・社会保険料の試算
- 不動産管理会社の社長は、自分の家計まで見るのが鉄則
「決算対策に強い税理士」に相談したいときは
ここまで読んでみて、「うちの税理士、こんな会話してくれてるかな…」「正直、決算対策の引き出しが少ない気がする」「節税営業の電話、ジャッジしてくれる人がいない」——そう感じている管理会社の社長さんは、本当に多いです。
💬 不動産管理会社の決算対策、一度本格的に整理してみませんか?
「決算対策に強い税理士に相談してみたい」「うちの管理戸数・利益規模に合った節税設計をしてほしい」という方は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。不動産管理会社・賃貸経営まわりの決算対策に明るい専門家をご紹介できます。
「相談していい話か分からない」レベルでも、まったく問題ありません。迷いがある段階で整理しておくほうが、後悔のない決算につながります。
まとめ:会議でつまずく「7つの失敗」を自社でも繰り返さないために
不動産管理会社の決算対策は、以下の5つを押さえれば、毎期の決算対策がぐっと安定します。
📋 決算前チェックリスト
- ☐ 一括償却を中心に、業務改善につながる設備投資を選ぶ
- ☐ 全額損金との違いを、3年トータルで見る
- ☐ 経営セーフティ共済の活用を検討する
- ☐ 不要資産の除却・売却で簿価を整理する
- ☐ 法人と個人の所得を、セットで設計する
💡 そして大切なのは、社内会議で「制度名を明確に話す」こと。
「一括償却」「中小特例」「全額損金」「即時償却」を、誰もが正しく区別して話せる状態にしておくと、税理士との議論の質が一段上がります。
今期、あなたの会社でもこのような会議をしていますか?もしまだなら、ぜひこの議事録を参考に、社内ミーティングを開いてみてください。
事業投資で賢く一括損金しつつ、不動産管理会社ならではの管理戸数の拡大・拠点出店・人員設計まで見据えて節税を考えるなら、こちらも参考にしてみてください。
※本記事は、一般的な制度のご紹介を目的としたものです。制度の適用可否や具体的な処理は、個別事情によって異なります。実際の判断は、必ず顧問税理士の先生にご確認ください。


