不動産会社の決算前対策|一括償却と全額損金どちらが有効か比較解説

「うちは"どっち派"でいくべきなんでしょうか?」
不動産会社の社長さんから、決算前にいただくご相談で、ここ数年いちばん増えているのがこれです。「一括償却と全額損金、結局どっちが得なんですか?」「税理士の先生は"どっちでもいい"って言うんですけど、それじゃ困るんです」「うちみたいな不動産会社って、何を基準に選べばいいですか?」——気持ち、本当によく分かります。
というのも、不動産会社は業種としてかなり"揺れ幅"が大きいんです。不動産業の利益の特性を整理するとこうなります。売買仲介の手数料がドンと入る月もあれば、まったく動かない月もある。自社買取再販は、1件抜けると一気に数千万円の利益が乗る。賃貸管理はストック型で安定するけれど、伸びはゆっくり。ハウスメーカー紹介や住宅ローン斡旋など、副収入の波もある。つまり、1年単位で見ても、毎月単位で見ても、利益のブレが激しい業種ということです。
その上で、「一括償却」と「全額損金」のどっちが向いているか。この記事では、不動産会社ならではの事情に寄せて、実用レベルで使い分けできるところまで整理していきます。最後まで読むと、「うちは今期、どっちで動くべきか」が、自分の言葉で言えるようになっているはずです。
大前提:「全額損金」という言葉が、実は4種類くらい混ざっている

最初にここを整理させてください。不動産会社の現場で「全額損金」と言われたとき、実は少なくとも4つの違う制度が含まれていることがあります。
| 種別 | 制度名 | 対象・上限 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| ① | 少額の減価償却資産 | 取得価額10万円未満 | 取得時に全額損金算入。要件なし |
| ② | 中小企業者等の少額減価償却資産特例 | 30万円未満(※改正後40万円未満)、年間300万円上限 | 青色申告などの要件あり。取得時に全額損金 |
| ③ | 設備投資減税系の即時償却 | 認定計画ベースの対象設備 | 取得価額の全額を初年度に償却。要件・認定が必要 |
| ④ | 各種の必要経費・費用処理 | 家賃、広告費、給与、外注費など | そもそも資産計上ではなく期間費用として全額損金 |
この4つが混ざったまま話していることだったりします。「今、どの全額損金の話をしているのか?」これを意識するだけで、決算前の議論はかなりスムーズになります。
まずは「一括償却」の正体を、しっかりつかむ

- 対象は取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産
- 通常の耐用年数ではなく、3年間で均等に費用化していく方法
- 1単位ごとに取得価額を判定(請求書1枚=1単位ではない)
- 原則として償却資産税の対象外として扱われる場面がある(自治体運用差あり)
実際は3年で均等に費用化していくので、1年目に18万円のPCを買ったら、その年に落ちるのは約6万円というイメージになります。「あれ、全部落ちないんですか?」と聞き返されることが本当に多いのですが、ここを正しくつかんでおくのが、決算対策の第一歩です。
「一括償却」と「全額損金」、不動産会社目線でズバッと比較

主役になりやすい2つの制度——一括償却資産(10〜20万円未満を3年均等)と中小特例の全額損金(30万円未満を取得時に全額損金)——を、不動産会社の視点で並べてみます。
| 比較項目 | 一括償却 | 中小特例(全額損金) |
|---|---|---|
| 対象金額 | 10〜20万円未満 | 30万円未満 ※改正後40万円未満 |
| 損金算入 | 3年均等 | 取得時に全額 |
| 今期の効き目 | じわっと効く | バシッと効く |
| 申告要件 | 特になし | 青色申告などの要件あり |
| 年間上限 | なし | 合計300万円 |
| 償却資産税 | 対象外として扱われる場面あり | 対象になることが多い |
| 台帳管理 | シンプル | 件数次第で膨らみがち |
| 翌期以降 | 残り2年分の費用が乗る | 来期以降の損金は基本なし |
- 「全額落としたい年」は中小特例:利益が一気に大きく出た年に向いています。「今期にバシッと圧縮したい」と思ったとき、まずこちらが第一候補です。
- 「平準化したい年」は一括償却:利益が毎年そこそこ安定して出ている会社に向いています。3年に分けて費用化することで、利益の波をなだらかにできます。
- 「数を揃えたい年」も一括償却が便利:PCを5台、タブレットを8台というように同一品目を複数まとめて買う場合は、台帳管理の観点でも一括償却がラクです。償却資産税の対象から外れる場面があるのも、地味に効いてきます。
不動産会社あるある:シーン別に「どっちが有効か」を考える

不動産会社で実際に起こりやすい場面を5つ取り上げて、どっちが有効かを見ていきます。(※会社・金額は、説明のための一般例です)
シーン1:仲介担当のノートPCをまとめて入れ替えたい
1台18万円のノートPCを、5台導入(合計90万円)
| 品目 | 取得価額 | 適用できる制度 | 判断のヒント |
|---|---|---|---|
| ノートPC × 5台 | 18万円/台 | 一括償却 or 中小特例 | 今期全額落としたい→中小特例 平準化・償却資産税を抑えたい→一括償却 |
仲介担当の業務効率は、PCのスペックでかなり変わります。反響対応の速度、物件情報のチェック、ポータルサイトの更新スピード。ここを底上げできる投資は、節税以前に売上に効く設備投資です。
今期の利益が大きく全部落としたいなら → 中小特例。来期以降にも費用を残したい・償却資産税を抑えたいなら → 一括償却。
シーン2:賃貸管理部門のタブレットを増やしたい
1台14万円のタブレットを、8台導入(合計112万円)
| 品目 | 取得価額 | 適用できる制度 | 判断のヒント |
|---|---|---|---|
| タブレット × 8台 | 14万円/台 | 一括償却 or 中小特例 | 合計112万円。中小特例の300万円枠に余裕あり |
入退去対応、現場確認、写真管理が一気にデジタル化できます。賃貸管理は戸数が増えるほど業務量が増える業種です。タブレット導入で、退去立会いの時間が半分以下になる・現場写真の共有が即時になる・オーナーへの報告書作成が早くなるといった効果が出ることもあります。
節税効果より、業務改善効果を主軸に判断したい場面です。数が多いので台帳管理のシンプルさを優先するなら一括償却、今期圧縮を優先するなら中小特例。
シーン3:来客スペースの大型モニター+応接セットの入れ替え
| 品目 | 取得価額 | 適用できる制度 | 判断のヒント |
|---|---|---|---|
| 大型モニター | 28万円 | 中小特例(全額損金) | 30万円未満なので中小特例の第一候補 |
| 応接セット(テーブル+椅子) | 35万円 | 通常償却 | 中小特例の対象外。1単位の判定に注意 |
| 撮影用照明セット | 9万円 | 全額損金(少額) | 10万円未満なので取得時に全額損金 |
応接セットのように「テーブル+椅子で1単位」とみなされる場合、各々の金額ではなくセットで判定されることがあります。「合計額で判断」してしまうと、後で「あれ、対象外だったの?」という事故が起きます。
シーン4:自社買取再販部門で、撮影機材を一気に更新したい
| 品目 | 取得価額 | 適用できる制度 | 判断のヒント |
|---|---|---|---|
| 一眼レフカメラ | 19万円 | 一括償却 or 中小特例 | レンズとセットで1単位とみなされるケースに注意 |
| 広角レンズ | 9万円 | 全額損金(少額) | 単独なら10万円未満で全額損金 |
| ジンバル | 6万円 | 全額損金(少額) | 10万円未満で全額損金 |
| 三脚 | 3万円 | 全額損金(少額) | 10万円未満で全額損金 |
| 照明セット | 11万円 | 一括償却 or 中小特例 | 10万円以上なので少額損金の対象外 |
買取再販は、「物件の見え方」で売却スピードと価格が変わる業種です。撮影機材への投資は、節税効果以上に物件1件あたりの粗利を押し上げる効果を期待できる場面があります。「経費にしたい」より「速く高く売りたい」が出発点になると、自然と判断がブレません。
シーン5:賃貸管理100戸超の会社が、業務システムをリプレース
| 品目 | 取得価額 | 適用できる制度 | 判断のヒント |
|---|---|---|---|
| 業務システム本体ライセンス | 80万円 | 通常償却(ソフトウェア) | 資産計上が基本。SaaSなら費用処理の場合あり |
| 業務PC × 3台 | 19万円/台 | 一括償却 or 中小特例 | 1台単位で判定。合計額で判断しないこと |
| サーバー | 35万円 | 通常償却 | 中小特例の対象外(30万円超) |
| 周辺機器(各9万円) | 9万円/台 | 全額損金(少額) | 10万円未満なので取得時に全額損金 |
一式で発注しても、処理は1単位ごとに分かれるのが基本です。ここは経理担当者と税理士の先生との連携が、特に大事になります。
不動産会社の社長が、決算前に意識したい3つの優先順位

利益額や事業構成によって順番は変わりますが、まずはこの順で考えると外しません。
仲介部門のPCやタブレット、賃貸管理部門の業務端末、撮影機材・接客スペースの整備、業務システムの更新——「経費にしたい」より先に、「実際に来期から使う投資があるか」を確認するのが先決です。
- 1個10万円未満 → 全額損金(少額)
- 10〜20万円未満 → 一括償却 or 中小特例
- 20〜30万円未満 → 中小特例での全額損金
- 30万円超 → 通常償却+設備投資減税系
この4層を意識するだけで、議論がぐっとシャープになります。
不動産会社の場合、役員報酬を増やした・役員賞与を出した・役員退職金で大きな所得が立ったようなケースだと、翌年6月の住民税・社会保険料がドンと跳ね上がることがあります。法人の節税だけ追ってしまうと、社長個人の家計が苦しくなる——ここは、ぜひ覚えておいてほしい視点です。
不動産会社で、よくある"やってしまいがち"な3つの失敗
決算前の現場でよく見る失敗パターンを3つだけ共有させてください。
全額損金は確かに今期の利益を大きく圧縮できます。ただし、現金もしっかり減ります。来期の運転資金、仕入れ予定、広告投資、人件費——不動産会社はキャッシュアウトが立て込む業種です。「全額落とせばOK」では、来期の動きが鈍くなることもあります。
販売用に仕入れた不動産は棚卸資産であり、減価償却資産ではありません。一括償却の対象にも、通常償却の対象にもなりません。「物件を仕入れて、決算前の利益を圧縮しよう」というのは、税務的にはまったく別の話です。売上計上時期の判定や、評価減のルールなど、別の論点として考える必要があります。
販売用不動産(棚卸資産)と固定資産(減価償却資産)の区別は、不動産会社の税務において非常に重要です。「物件を買えば節税になる」という単純な発想は危険で、保有目的・計上区分・売上認識のタイミングを含めて、顧問税理士と事前に整理しておくことが欠かせません。
カメラとレンズ、PCとモニター、応接テーブルと椅子、システム本体と周辺機器——これらは「合計いくらだから○○制度」という判断ではうまくいきません。1単位ごとの取得価額を、きちんと整理して判定する必要があります。
まとめ:一括償却と全額損金、結局どっちで動くべきか
ここまでの話を、ひと言にまとめるとこうなります。
| 一括償却が向いている会社 | 中小特例(全額損金)が向いている会社 |
|---|---|
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「今年は一括償却中心、来年は中小特例中心」というように、年ごとに重心を変えるのもアリです。決算対策は、テクニックの選択肢ではなく、経営の判断です。利益が出た年も、利益が薄かった年も、毎年の数字と現場の状況を見ながら、無理のない一手を積み重ねていく——そんな会社こそ、3年後・5年後に「いい節税ができていた」と言える状態になっていきます。
不動産会社のあなたの会社が、今期どっちで動くべきか。この記事が、その判断材料のひとつになれば嬉しいです。
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