建設業の法人税対策で使われる一括償却とは?決算前に比較したい節税策

「決算前って、結局何から考えたらいいんでしょう?」
建設業の社長さんから、決算前にいちばん多く聞かれるのが、この質問です。「今期、思ったより利益が残りそうなんですよね」「税金重いから、何か手を打ちたい」「一括償却って言葉は聞くけど、結局それが正解なのかが分からない」——気持ち、すごくよく分かります。
建設業の決算前は、選択肢が多いんです。設備、賞与、共済、修繕、除却、保険、設備投資減税。「全部やったほうがいいのか」「どれかひとつでいいのか」、迷うのが普通です。しかも、決算月って現場が一番動いている時期だったりするので、ゆっくり考えている時間がない。気がつけば「とりあえず何か買って終わり」になって、毎年同じ反省を繰り返してしまう。
そんな状態を抜け出すために、この記事では建設業の決算前を「判断マップ」として整理しました。読み終わるころには、決算前に何を、どの順番で考えればいいかが、すっきりするはずです。それでは、いきましょう。
マップ① 制度の全体像を一枚絵で押さえる

建設業の決算対策で出てくる主な制度を、ぎゅっとひとつの表にまとめました。
| 金額帯/種類 | 制度名 | 処理のイメージ | 建設業での使用例 |
|---|---|---|---|
| 取得価額10万円未満 | 少額の減価償却資産 | 取得時に全額損金算入 | 業務用スマホ、小型工具、LTEルーター |
| 10〜20万円未満 | 一括償却資産 | 3年間で均等に費用化 | 現場用タブレット、ノートPC、監視カメラ |
| 30万円未満(青色等の中小企業者) | 中小企業者等の少額減価償却資産特例 | 全額損金算入(年間合計300万円まで) | 高性能PC、墨出し器、業務用複合機 |
| 一定の機械装置等 | 中小企業投資促進税制 | 特別償却または税額控除 | バックホー、コンプレッサー、小型運搬車 |
| 経営力向上計画の認定設備 | 中小企業経営強化税制 | 即時償却または税額控除 | 認定計画に基づく重機・特定機械装置 |
| 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済) | 共済掛金 | 全額損金(年間240万円・累計800万円まで) | 売掛金リスクヘッジと節税の両立 |
ここで大事なのは、「全額損金になる」という言い方に4種類くらいの意味があるということです。社長と税理士、社員、保険担当者がそれぞれ違う制度を頭に思い浮かべて話していると、議論はぐちゃぐちゃになります。「今、どの制度の話をしているのか」をはっきりさせるだけで、決算前のミーティングは見違えます。
マップ② そもそも「一括償却」ってどんな制度?

ここでひとつ、誤解されやすいポイントを整理させてください。
- 対象は取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産
- 通常の耐用年数ではなく、3年間で均等に費用化していく方法
- 1単位ごとに金額を判定(請求書1枚=1単位ではない)
- 原則として償却資産税の対象外として扱われる場面がある(自治体運用差あり)
これは違います。一括償却は3年間にわけて、毎年少しずつ費用化していく制度です。「即時に全額経費」ではありません。このイメージを正しく持つだけで、決算前の判断が驚くほどクリアになります。
マップ③ 建設業で「一括償却」がよくハマる設備

業態別に、一括償却ゾーン(10〜20万円未満)に入りやすい設備を整理しておきます。
| 業態 | 一括償却ゾーンに入りやすい設備 |
|---|---|
| 総合建設業/土木工事 | 現場監督用タブレット(12〜18万円)、写真管理用ノートPC(15〜19万円)、監視カメラセット(15〜19万円/セット)、小型計測機器(10〜18万円) |
| 設備工事(電気・空調) | 計測器(10〜19万円)、業務用ノートPC(16〜19万円)、業務用タブレット(12〜18万円) |
| 内装仕上工事 | レーザー墨出し器のうち19万円までの機種、電動工具のうち高単価のもの、養生・搬入用機材 |
| 解体工事 | 現場監督・職長用端末、写真管理機器、通信機器 |
たとえば、レーザー墨出し器。19万円の機種なら一括償却ゾーンに入りますが、グレードを少し上げて24万円の機種にすると、一括償却の対象外になります。「うちの墨出し器、いくらだっけ?」というちょっとした確認が、決算対策の精度をぐっと上げてくれます。
マップ④ 一括償却の「いいところ」と「ここは弱い」ところ
メリットとデメリットを、フラットに並べてみます。
| ◎ いいところ | △ ここは弱い |
|---|---|
| 固定資産台帳がシンプルになって、経理処理の負担が軽くなる | 1年で大きく利益を圧縮することはできない |
| 償却資産税の負担を抑えられる場面がある | 「1台20万円未満」という上限が、建設機械の世界ではやや狭い |
| 3年で均等に費用化されるので、利益の波を多少ならしやすい | 一括償却だけで大規模な節税対策にはならない |
一括償却は「決算対策のスター選手」ではなく、「黙々と仕事をしてくれる縁の下の力持ち」というイメージです。派手な効果はないけれど、毎年地味に効き続ける。台帳をすっきり保ち、償却資産税の負担を抑えてくれる。そんな"地味に頼れる存在"として位置づけると、ちょうどよく付き合えます。
マップ⑤ 一括償却と合わせて比較したい、6つの節税策

一括償却だけで考えると、どうしても打ち手が小さくなります。ここからは、決算前にあわせて比較したい主な選択肢を6つ並べていきます。
① 中小企業者等の少額減価償却資産特例(30万円未満)
青色申告などの要件を満たす中小企業者が、1個30万円未満の資産を全額損金算入できる制度です。年間合計の上限は300万円。タブレット、PC、計測器、ちょっといい機種の墨出し器など、ここに当てはまるものが多いです。「全額落としたい」と感じたとき、最初に思い出したい制度のひとつです。
② 中小企業投資促進税制/中小企業経営強化税制
一定の機械装置や器具備品の取得について、特別償却(取得価額の30%など)や税額控除(取得価額の7%または10%など、資本金規模により異なる)が選べます。経営強化税制の認定計画ベースなら、即時償却の選択肢も用意されています。ユンボやクレーン、コンプレッサーなど、中型〜大型機械の取得を予定している会社にとって、見逃せない制度です。
③ 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)
中小企業基盤整備機構が運営している共済です。掛金は年間240万円・累計800万円まで、原則として全額損金算入できます。取引先が倒産したときに貸付を受けられる仕組みもあり、建設業は売掛金のリスクと隣り合わせの業種なので、節税とリスクヘッジを兼ねた一手として相性のよい制度です。
2024年10月1日以降、経営セーフティ共済を解約して再加入する場合、解約日から2年間は掛金の損金算入ができなくなりました。かつて「解約→再加入」を繰り返して節税する手法がありましたが、この改正によって事実上封じられています。また、解約手当金を受け取るときは課税対象になるため、「入って終わり」ではなく、「いつ、どう出すか」までセットで考えるのがコツです。
④ 決算賞与
要件を満たしたうえで、社員に決算賞与を支給する方法です。人手不足が深刻な建設業では、人材定着や士気アップの効果も大きい一手です。ただし、損金算入のためには支給対象者への通知、支給時期、金額確定などの要件をきちんと満たしている必要があります。「現場の頑張りに、しっかり返したい」そう思える年こそ、検討の価値がある選択肢です。
⑤ 修繕費の前倒し
工場、倉庫、車両、機械のオーバーホールなど、近いうちに必要だった修繕を、計画的に今期にまわす方法です。ただし、内容によっては「修繕費」ではなく「資本的支出」と判定されることもあります。ここは事前に税理士の先生と相談しておくのが安心です。
⑥ 不要資産の除却・売却
使っていない車両、もう動かしていない機械、押し入れに眠っている設備——これらを除却・売却すると、簿価分を一気に費用化できる場面があります。
不要資産の整理には、固定資産税の節減につながる・倉庫や敷地が物理的にすっきりする・保管・管理コストが減るといった「お金以外のメリット」も意外と大きいです。「整理する」ことも、立派な決算対策です。
マップ⑥ 法人保険の「全額損金」について、いまの常識
ここはしっかり押さえておきたいポイントです。かつては、いわゆる「節税保険」と呼ばれる全損タイプ・半損タイプの法人保険が広く販売されていた時期がありました。ところが、2019年(令和元年)の法人税基本通達の改正により、定期保険や第三分野保険(医療・がん保険等)の保険料の損金算入ルールが大きく変わりました。
| 最高解約返戻率 | 損金算入の扱い | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| 50%以下 | 全額損金算入可 | 返戻金が少なく、純粋な保障目的向け |
| 50%超〜70%以下 | 保険料の40%を資産計上(60%損金) | 一部損金だが出口設計が必要 |
| 70%超〜85%以下 | 保険料の60%を資産計上(40%損金) | かつての「4割損金」タイプ |
| 85%超 | 当初10年間は保険料の10%のみ損金。11年目以降30%損金 | 最も厳しい区分。ほぼ節税目的には使えない |
もちろん、法人保険そのものを否定するわけではありません。事業保障・事業承継・退職金準備など、本来の保障目的で使うのは十分に意味があります。ただし、「節税のため」だけに入る・解約返戻金を出口にした"節税スキーム"を当てにする・「全額損金になります」というセールスを鵜呑みにする——これらは、現在の税制に照らすと無理筋になりやすい考え方です。決算前に保険の話が出てきたときは、「節税効果」ではなく「保障内容」と「出口の設計」で判断するクセをつけておくと、後悔しにくくなります。
マップ⑦ 利益規模別の「打ち手の優先順位」

利益額別に打ち手の優先順位を整理しておきます。まずは一覧表で全体を俯瞰してください。
| 打ち手 | 利益 〜500万円 |
利益 〜1,000万円 |
利益 〜2,000万円 |
利益 5,000万円超 |
|---|---|---|---|---|
| 一括償却(日常備品更新) | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 中小特例(300万円枠) | △ | ○ | ○ | ○ |
| 経営セーフティ共済(240万円) | △ | ○ | ○ | ○ |
| 修繕費の前倒し | △ | ○ | ○ | ○ |
| 設備投資減税(投資促進税制) | — | △ | ○ | ○ |
| 決算賞与・不要資産の整理 | △ | △ | ○ | ○ |
| 即時償却・経営強化税制の戦略活用 | — | — | △ | ○ |
| 法人・個人の所得設計を一体で検討 | — | — | — | ○ |
○=積極的に検討 △=状況次第で検討 —=この規模では優先度低
必要な設備の更新だけに絞り、一括償却ゾーンの備品を中心に。無理に節税で動かず、現金を残すことを最優先にします。利益が小さい年に節税で現金を減らすと、来期がしんどくなります。「今年は税金を払う年」と腹をくくるのも、立派な経営判断です。
中小特例の年間300万円枠、経営セーフティ共済の年間240万円、一括償却による日常備品更新、必要な修繕の前倒し——この組み合わせだけでも、年間500万円以上の損金が立ちます。派手な節税スキームに頼らなくても、ここまで来られる会社は多いです。
中小特例+共済+設備投資減税を組み合わせ、中型機械の取得を計画的に進めます。不要資産の除却・売却で簿価を整理し、決算賞与で社員に還元する。ここからは、「制度を組み合わせる経営」にシフトすると、年間の選択肢がぐっと増えます。
中小企業経営強化税制の認定計画ベースで設備投資し、即時償却・特別償却を戦略的に活用。法人と個人(役員)の所得設計を一体で検討し、顧問税理士・社労士との定期ミーティングを必須にします。このクラスになると、決算対策は単なる節税の話ではなく、経営全体のキャッシュフロー設計の話に変わっていきます。
マップ⑧ 決算前に陥りやすい、5つの落とし穴
よくある失敗パターンを整理します。
「一括償却」「中小特例」「即時償却」「全額損金」が頭の中で混ざる。→ ミーティングのたびに、「今、どの制度の話か」を明示するクセをつける。
発注しただけでは、今期の費用にはなりません。事業の用に供したか(実際に使い始めたか)が問われます。→ 決算1か月前以降の大型発注は、納品リスクをよく確認する。
セット販売や周辺機器を「合計額で判断」してしまう。→ 1単位ごとの取得価額を必ず意識する。
「全額損金になります」と強調される商品・解約返戻金を絡めた節税スキーム・駆け込みの大型設備投資——こうしたものは、要件と出口の両方を必ず確認しましょう。
役員報酬を上げた翌年は、住民税・社会保険料の負担が増えます。特に役員が国民健康保険に加入している場合は、翌年6月の通知でびっくりすることがあります。法人と個人を同じテーブルで見る——これが本当の決算対策です。
決算前チェックリスト(建設業向け)
そのまま使えるチェックリストをまとめておきます。社内ミーティングや税理士の先生との打ち合わせの前に、一度ざっと目を通してみてください。
- ✅ 10万円未満/10〜20万円未満/30万円未満/30万円超の区分が明確か
- ✅ 一括償却・中小特例・設備投資減税の使い分けを税理士と共有しているか
- ✅ 「全額損金」という言葉が、どの制度を指しているか明確か
- ✅ 今期の利益見込みを、複数パターン(楽観・中間・保守)で把握しているか
- ✅ 来期前半の運転資金が確保できているか
- ✅ 翌年6月の社会保険料・住民税の影響を試算しているか
- ✅ 1単位ごとの取得価額を確認しているか
- ✅ 納品・使用開始が今期内に間に合うか
- ✅ 現場の必要性から逆算して購入しているか
- ✅ 中小特例の年間300万円枠を意識しているか
- ✅ 経営セーフティ共済の活用を検討したか(解約後2年ルールも確認)
- ✅ 設備投資減税系(投資促進/経営強化)の対象設備の有無を確認したか
- ✅ 不要資産の除却・売却の検討をしたか
- ✅ 「全額損金になる」とうたう商品の要件・出口を確認したか
- ✅ 法人保険を検討する場合、現行制度(2019年改正後)の資産計上ルールを理解したか
- ✅ 駆け込み発注の納品リスクを確認したか
まとめ:一括償却は「主役」ではなく、「頼れる脇役」
建設業の法人税対策で使われる一括償却は、取得価額10万円以上20万円未満の減価償却資産を3年間で均等に費用化する制度であり、派手な節税効果はないけれど、台帳のシンプル化や償却資産税の負担軽減に確実に貢献する、地味で堅実な制度です。
決算前に大切なのは、これ単独で考えるのではなく、中小特例(30万円未満で全額損金)・設備投資減税(投資促進/経営強化)・経営セーフティ共済・修繕費の前倒し・不要資産の整理・決算賞与といった選択肢と比較しながら、自社の利益規模に応じて組み合わせることです。
- 法人保険を使った「全額損金タイプの節税」は、2019年の税制改正で事実上封じられている
- 「全額損金になる」と説明される商品は、要件・出口の確認が必須
この2点を押さえているだけで、決算前に変な提案に振り回されずにすみます。
決算対策は、テクニックではなく、経営の判断です。今期の数字を見ながら、来期の現場、社員、資金繰り、ご自身のご家族の暮らしまで含めて、納得のいく一手を選んでいきましょう。
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