不動産会社が決算前に一括償却を検討する時の注意点|全額損金だけで判断しない考え方

「全額損金にできますよ」で、思考が止まっていませんか?
不動産会社の決算前、税理士の先生からこう言われる場面、ありませんか。「PCはまとめて買って全額損金にしておきましょうか」「タブレットは一括償却でいいですよ」「30万円未満なら特例で落とせます」——で、社長は「お任せします」。
不動産会社の決算対策は、"全額落とせるかどうか"だけで決めると、必ずどこかでズレます。
特に不動産会社は、売買仲介の手数料が一気に乗る・自社買取再販で大きな利益が出る・賃貸管理のストック収入が伸びる・投資用物件の売却で一時的な利益が出るなど、利益の出方が業態ごとにまったく違うんです。「他の不動産会社がやってるから」「税理士が勧めるから」で動いてしまうと、自社の状況に合っていない節税になりがちです。
この記事では、不動産会社の社長が税理士に必ず聞いておきたい15の質問を、期初〜期中・決算3か月前・決算1か月前の3つのフェーズに分けて並べていきます。これを順に聞いていくだけで、決算対策の精度は驚くほど上がります。

| フェーズ | 質問 | 確認のポイント | この質問で得られること |
|---|---|---|---|
| 期初〜 期中 |
Q1 | 今期利益の着地見込みを3パターンで試算 | 節税規模の基準線を早期に把握 |
| Q2 | 中小特例300万円枠が使えるかを確認 | 「使えると思っていたら対象外」を防ぐ | |
| Q3 | 支出の制度マップを税理士と作る | 決算前の判断を一気に早くする下準備 | |
| Q4 | 使っていない資産の除却・売却方針を確認 | 「捨てる節税」で固定資産税も軽くする | |
| Q5 | 来期の事業計画と節税の優先順位を共有 | 経営と税務をリンクさせた助言を引き出す | |
| 決算 3か月前 |
Q6 | 一括償却と中小特例、自社に向いているのはどちらか | 制度の「向き・不向き」を自社の数字で判断 |
| Q7 | 翌期以降に残す損金の水準を確認 | 「時間軸」で節税の質を上げる | |
| Q8 | 設備投資減税の対象設備の有無を確認 | 特別償却・税額控除の活用機会を逃さない | |
| Q9 | 経営セーフティ共済の活用を検討 | 節税+リスクヘッジの二刀流を確認 | |
| Q10 | 翌年6月の住民税・社会保険料を試算 | 法人節税で個人家計が苦しくなるのを防ぐ | |
| 決算 1か月前 |
Q11 | 今期中に納品・使用開始が間に合う設備の確認 | 「発注=費用」の誤解を防ぐ |
| Q12 | 1単位の金額判定を税理士に確認 | セット・周辺機器の誤処理を防ぐ | |
| Q13 | 営業を受けている節税商品を税理士にチェック | 要件・出口・前提条件の第三者検証 | |
| Q14 | 不要資産の除却・売却スケジュールを確認 | 「今期処理」を確実に実行するために | |
| Q15 | 今期の最終着地シミュレーションを提示してもらう | 「丸投げ」から「一緒に意思決定」に変わる |
【期初〜期中フェーズ】まだ時間があるうちに聞きたい質問5つ

質問1:今期の利益着地見込みを確認する
期初〜上半期の時点で、税理士に着地見込みを概算でいいので試算してもらいます。不動産会社は、売買成約が1件抜けただけで利益が一気に乗る・仕入が決算をまたいで翌期にずれることもあるので、「楽観・中間・保守」の3パターンで利益を持っておくのが鉄則です。
「今期、利益はだいたいいくらで着地しそうですか?」
質問2:中小特例の年間300万円枠が使えるかを確認する
中小企業者等の少額減価償却資産特例(30万円未満で全額損金、年間300万円まで。令和8年度改正後は40万円未満)が使えるかどうかは、資本金規模・青色申告などの要件・業種要件によって変わります。「使えると思ってたら、対象外だった」というケースも実際にあるので、期中のうちに確認しておくのがおすすめです。
「うちの場合、青色申告で中小特例の年間300万円枠は使えますか?」
質問3:支出の制度マップを税理士と作る
不動産会社で出てきやすい支出を、税理士と一緒に「制度マップ」に振り分けてしまいます。
| 支出例 | 金額目安 | 適用制度の候補 | 判定上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 営業用ノートPC | 17万円 | 一括償却 or 中小特例 | モニターとセットの場合は1単位判定に注意 |
| 接客用大型モニター | 28万円 | 中小特例(全額損金) | 30万円未満なので中小特例の第一候補 |
| 業務システム | 80万円 | 通常償却(ソフトウェア) | SaaSなら費用処理の場合あり。要確認 |
| 物件撮影用カメラ+レンズ | 本体19万円+レンズ9万円 | 一括償却 or 中小特例 | セットで1単位とみなされる場合あり |
| 物件撮影用照明・三脚 | 各9万円未満 | 全額損金(少額) | 10万円未満なら取得時に全額損金 |
「制度ごとに振り分けたマスター」を作っておくと、決算前の判断が一気に早くなります。
「うちの業務でよくある支出は、どの制度に振り分けるのが妥当ですか?」
質問4:使っていない資産の整理方法を確認する
不動産会社の倉庫や事務所には、けっこう眠っている資産があります。使っていない営業車・古い接客什器・リースアップした機材・使わなくなった撮影機材——これらを除却・売却すると、簿価分を一気に費用化できる場面があります。さらに、固定資産税・償却資産税の負担も下がります。
「業務で使っていない資産は、どう整理するのがいいですか?」
質問5:来期の事業計画と節税の優先順位を共有する
これ、意外と聞かれないんです。来期は仕入を増やす予定がある・新拠点を出す計画がある・採用を強化する予定・既存物件のリノベを予定している——こういう情報を税理士と共有しておくと、経営と税務をリンクさせた助言が引き出せます。
- 「今期はあえて全額落とさず、現金を残しましょう」
- 「逆に、今期に節税で動いてキャッシュフローを軽くしておきましょう」
どちらの助言も、来期の事業計画を共有していないと出てきません。
「来期の事業計画から見て、節税より優先すべき投資はありますか?」
【決算3か月前フェーズ】判断材料を集める質問5つ

質問6:一括償却と中小特例、自社に向いているのはどちらか
ようやくここで、本題が登場します。税理士に聞くべきは「どちらが得か」ではなく、「うちの場合、どちらが向いているか」です。判断の材料は今期利益の規模・来期以降の利益見通し・償却資産税の感度・台帳管理の負担・法人と個人の所得バランスです。抽象的な質問のままだと、税理士もふんわりした答えになりがちです。自社の数字を一緒に見ながら聞くのがコツです。
「一括償却と中小特例、うちの今期の場合どちらが向いていますか?」
質問7:翌期以降に残すべき損金の水準を確認する
ここを聞ける社長さんは、決算対策が一段上のレベルにいます。全額損金で今期にバシッと落とすと、来期以降の損金は基本的にゼロになります。一括償却なら3年で均等に費用化されるので、来期・再来期にも損金が残ります。
- 来期も同水準で利益が出る見通し → 今期は一括償却で均しましょう
- 来期は利益が落ち着く見通し → 今期にしっかり全額落としましょう
- 来期の利益が読みにくい → 共済+一括償却で"柔らかく"構えましょう
この時間軸での判断ができるかどうかが、節税の質を分けます。
「翌期以降の損金は、どれくらい残しておくべきですか?」
質問8:設備投資減税の対象設備があるかを確認する
不動産会社でも、設備投資減税の対象になりうる設備があります。業務システムの大規模リプレース・撮影スタジオの照明・録音設備・VRショールームの機材・大型サーバー・ネットワーク機器などが候補です。中小企業投資促進税制(令和3年度改正で不動産業も対象業種に追加)、中小企業経営強化税制の対象設備に該当するかどうかは、税理士に確認しないと判定が難しい領域です。「対象になるなら、特別償却や税額控除を使うほうが、結果として節税効果が大きい」ということもあります。
「設備投資減税(投資促進・経営強化)の対象になる設備はありますか?」
質問9:経営セーフティ共済の活用を検討する
不動産会社は、売買代金の入金タイミングのズレ・取引先の倒産リスク・媒介報酬の未回収など、売掛金まわりのリスクがある業種です。経営セーフティ共済は、年間240万円・累計800万円まで掛金が全額損金算入・取引先の倒産時に貸付制度ありという、節税とリスクヘッジを兼ねた制度です。
- 解約手当金は受取時に課税対象になるため、出口の設計が必要です。「入って終わり」ではなく「いつ、どう出すか」までセットで考えること。
- 2024年10月1日以降の改正:解約後2年以内に再加入しても、掛金の損金算入ができなくなりました。「解約→再加入」を繰り返す手法は事実上封じられています。
「経営セーフティ共済(倒産防止共済)の活用は検討しましたか?」
質問10:翌年6月の住民税・社会保険料を試算してもらう
これも、決算対策の議論で抜けがちなテーマです。役員報酬を上げた・役員賞与を出した・役員退職金を支給予定——このようなケースでは、翌年6月の住民税・社会保険料・国民健康保険料が大きく増えることがあります。法人の節税ばかり追って個人を見ないと、社長個人の家計が苦しくなります。法人と個人をセットで見るためにも、必ず税理士と試算しておきましょう。
「翌年6月の住民税・社会保険料は、どれくらい増えそうですか?」
【決算1か月前フェーズ】最後の確認をする質問5つ

質問11:今期中に納品・使用開始が間に合う設備を確認する
決算1か月前以降の発注は、納品リスクと隣り合わせです。業務システム(セットアップに時間がかかる)・業務PC(設定・配布の段取りに注意)・撮影機材(取扱説明や運用ルールづくりに時間)・接客什器(設置工事が翌期にずれることも)——「発注しただけでは費用にならない」「事業の用に供してこそ」このルールを、税理士と一緒に再確認する時期です。
「今期中に納品・使用開始が間に合うものは、どれですか?」
質問12:1単位の金額判定を税理士に確認する
不動産会社で迷いやすいのが、カメラ本体+レンズ・PC+モニター・応接テーブル+椅子・業務システム+周辺機器の1単位判定です。「セットで1単位とみなされる場合」もあれば、「単体で機能するなら別単位」と判定される場合もあります。セールスマンや経理担当ではなく、税理士の判断を必ず取りましょう。
請求書1枚にまとめて書いてあっても、処理は1単位ごとに分かれるのが基本です。1単位の判定を誤ると、想定した制度が適用できなくなる事故が起きます。
「1単位の金額判定、こちらの想定で合っていますか?」
質問13:営業を受けている節税商品を税理士にチェックしてもらう
決算1か月前は、節税商品のセールスが一番盛んな時期です。「全額損金になります」「即時償却で経費化できます」「解約で資金が戻ります」——こうした提案を受けたら、即決せず、必ず税理士に見てもらいましょう。
- 制度の適用要件を本当に満たしているか
- 出口の設計(解約・売却時の課税)はどうなっているか
- 「節税効果◯◯万円」の前提条件は妥当か
判断材料が揃わない提案は、保留が正解です。
「今、営業を受けている節税商品、見てもらえますか?」
質問14:不要資産の除却・売却スケジュールを確認する
期中で動くつもりだった除却・売却が、結局決算前まで残ってしまうケースは多いです。物理的な引き取り日・帳簿上の除却処理日・売却契約の締結日と引渡日——これらを税理士と確認して、確実に今期に処理できるスケジュールで動きます。
「不要な資産の除却・売却は、いつまでに動くべきですか?」
質問15:今期の最終着地シミュレーションを見せてもらう
最後に、これを必ず聞きます。
- ✅ 今期利益見込み
- ✅ 採用する節税策の組み合わせ
- ✅ 期末時点の現金残高見込み
- ✅ 翌期前半の資金繰り見込み
- ✅ 翌年6月の社会保険料・住民税の影響
これらを1枚のシートで見せてもらう。「税理士に丸投げ」から「税理士と一緒に意思決定する」状態に変わります。この差が、3年後・5年後の経営に効いてきます。
「今期、最終的にどう着地するか、シミュレーションを見せてもらえますか?」
「全額損金だけで判断しない」ための3つの軸

15の質問を通して見えてくる、不動産会社の決算対策の本質を3つに整理します。
- 今期だけ突出している → 全額落としきる選択肢
- 来期も同水準で出る見通し → 一括償却で均す選択肢
- 利益が読みにくい → 共済+一括償却で"柔らかく"構える選択肢
来期の仕入予定・新拠点や採用などの先行投資・役員退職金や賞与の予定・借入返済のスケジュール——これらの資金需要を可視化してから、節税の規模を決めます。
役員報酬・住民税・社会保険料や国民健康保険料・退職金や配当の設計——法人の節税ばかり追って個人がしんどくなる、という典型を避けるための視点です。
| 判断の軸 | 見るべきポイント | よくある落とし穴 |
|---|---|---|
| 🕐 時間軸 | 今期・来期・再来期の利益見通し | 今期だけ見て全額落とし、来期に損金がゼロになる |
| 💰 資金軸 | 来期の資金需要・キャッシュアウトの予定 | 節税で現金を減らし、翌期の仕入・投資に詰まる |
| 👤 個人軸 | 役員報酬・翌年6月の社会保険料・住民税 | 法人節税で報酬を上げ、個人の手取りが減る |
「決算対策に強い税理士」に相談したい方へ
ここまで読んできて、こう感じている方はいませんか?
- 「うちの税理士、この15個の質問にちゃんと答えてくれそうかな…」
- 「正直、決算対策に強い税理士に一回見てもらいたい」
- 「営業電話の節税商品、誰かにジャッジしてほしい」
そう感じている不動産会社の社長さんは、本当に多いです。決算対策は、税理士との対話の質で結果が変わります。
「決算対策に強い税理士に相談してみたい」「うちの数字に合わせて、一括償却と全額損金どっちが向いてるか聞きたい」「営業中の節税商品、ちょっと見てほしい」という方は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。不動産業まわりの決算対策に明るい専門家をご紹介できます。「相談していい話か分からない」レベルでも、まったく問題ありません。むしろ、その段階で整理しておくほうが、後悔のない決算につながります。
まとめ:質問できる社長が、節税で勝つ
不動産会社の決算対策で、最も大事なのは「制度の知識」ではありません。自社の数字を見ながら、税理士に正しい質問ができるかどうかです。
今回紹介した15の質問は、期初〜期中(Q1〜Q5)・決算3か月前(Q6〜Q10)・決算1か月前(Q11〜Q15)の構成になっています。全部を一気に聞こうとせず、フェーズごとに分けて聞いていく——それだけで、決算対策の精度は驚くほど上がります。
- 「全額損金にできる」≠「全額損金にすべき」
- 「税理士が勧めた」≠「うちに合っている」
- 「他社がやってる」≠「うちもやるべき」
質問を持って税理士と向き合える社長は、毎年の決算が確実にラクになっていきます。そして、3年後・5年後に振り返ったときに、「あのとき焦って全額落とさなくてよかった」と言える経営になっています。今期の決算前、ぜひこの15の質問を手帳に書き写して、税理士の先生との打ち合わせに持っていってみてください。
事業投資で賢く一括損金しつつ、不動産会社ならではの利益のブレや資金繰り、来期の仕入計画まで見据えて節税を考えるなら、こちらも参考にしてみてください。
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