節税対策で収益物件を買うのは本当にアリ?減価償却のうまみと見落としやすい出口リスクを整理

決算が近づいてくると、利益が出ている事業者ほど「何か対策を打てないか」と考えやすくなります。その流れの中で、昔からよく出てくるのが「節税目的で収益物件を買う」という話です。
ただ、こうした話は昔からある一方で、今の相場環境ではそのまま鵜呑みにしにくい場面も増えています。以前なら、ある程度高い利回りが見込める物件を前提に話が進んでいましたが、今は利回りが下がっているうえ、販売会社の利益がしっかり乗った状態で「節税になります」と提案されるケースも珍しくありません。入口の数字がきれいに見えても、保有中や売却時に崩れてしまうことがあります。
実際、節税対策として紹介された収益物件を見てみると、表面上は悪くないように見えても、空室、修繕、サブリース、売却価格、次の融資への影響まで含めると、そう単純には勧めにくい案件もあります。大事なのは、「節税になるかどうか」だけではなく、「その代わりに何を引き受けるのか」まで理解して判断することです。
今回は、よくある収益物件の相談事例をもとに、節税目的で不動産を買う仕組みと、数字上のメリット、そして見落とされやすいリスクをまとめていきます。決算前に慌てて動く前に、一度落ち着いて整理しておきたい内容です。
収益物件の節税は、なぜ魅力的に見えるのか

収益物件を使った節税の話で中心になるのは、やはり減価償却です。不動産のうち、土地は減価償却できませんが、建物は耐用年数に応じて毎年経費化していくことができます。特に築年数が進んだ木造アパートなどでは、短い年数で大きく償却できるケースがあり、これが「節税向き」と言われる理由になっています。
たとえば、以下のような収益物件を考えてみます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 物件価格 | 1億円 |
| 諸費用 | 400万円 |
| 借入額 | 9,000万円 |
| 自己資金 | 1,400万円 |
| 金利 | 2.5% |
| 返済期間 | 35年 |
| 表面利回り | 7% |
| 年間家賃収入 | 700万円 |
| 構造・築年数 | 木造・築30年 |
借入は9,000万円、自己資金は1,400万円、金利2.5%、返済期間35年。表面利回りは7%で、年間家賃収入は700万円です。空室率10%、運営費15%で見込むと、実質の収入は525万円になります。年間返済額が386万円なら、税引前のキャッシュフローは139万円です。
ここだけ見ると、「そこまで強い数字ではないな」と感じる人もいるかもしれません。けれど、このあと税金の計算に入ると一気に見え方が変わります。
数字上はかなりきれいに見える。だからこそ判断を急ぎやすい

仮にこの物件の土地と建物の割合が4対6だとすると、土地4,000万円、建物6,000万円です。さらに築30年の木造とすると、建物部分は4年で償却できる整理になり、年間の減価償却費は1,500万円になります。
税務上の計算では、家賃収入から運営費のほか、借入返済のうち利息部分、さらに減価償却費などが引けます。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 実質収入(空室率10%・運営費15%控除後) | 525万円 |
| 年間返済額 | ▲386万円 |
| 税引前キャッシュフロー | 139万円 |
| 利息部分 | ▲223万円 |
| 減価償却費 | ▲1,500万円 |
| 青色申告控除 | ▲10万円 |
| 課税所得 | ▲1,208万円 |
| 還付額(税率50%の場合) | 約604万円 |
| 税引後キャッシュフロー(CF+還付) | 約743万円 |
ここで、もともとの所得が高く、税率が高い人ほどインパクトが大きくなります。仮に税率50%で見れば、1,208万円のマイナスによって、およそ604万円の還付が見込める計算です。もともとの税引前キャッシュフローが139万円ですから、ここに還付604万円を足すと、税引後の累計キャッシュフローは743万円になります。
これが1年だけでなく、減価償却がしっかり効く4年間続くと考えると、かなり魅力的に映るのは当然です。「自己資金1,400万円で始めて、初年度から大きくお金が戻るなら悪くない」と感じる人は多いはずです。節税目的の不動産投資が長く支持されてきたのも、この"数字の気持ちよさ"が大きいのだと思います。
問題は5年目以降。うまみが消えたあとに何が残るか

ただし、減価償却には終わりがあります。この事例では4年で建物を償却し切る前提なので、5年目からは大きな経費が消えます。すると、同じ家賃収入でも課税所得の見え方が一気に変わってきます。
| 項目 | 1〜4年目 | 5年目以降 |
|---|---|---|
| 減価償却費 | ▲1,500万円 | 0円 |
| 課税所得 | ▲1,208万円 | +309万円 |
| 税金の動き | 還付 約604万円 | 納税 約154万円 |
| 税引後キャッシュフロー | 約743万円 | マイナス |
5年目は、実質収入525万円から利息206万円、青色申告控除10万円を引いて、課税所得は309万円程度になります。税率50%で考えると、今度は154万円前後の納税が発生します。税引前のキャッシュフローは139万円ですから、そこから154万円の納税を引くと、税引後ではマイナスになります。
減価償却が効いている間は大きくプラスだったものが、償却が終わった途端に苦しくなります。最初の数年はとても気分がいいのですが、その後の反動まで含めて見ないと、投資全体の評価を誤りやすくなります。
売却時はさらに注意が必要。帳簿価格が下がるほど税金が重く見える

節税物件の提案では、「5年から6年で売却すればいい」と説明されることがあります。たしかに、保有中の節税効果を取りながら、どこかで売却して出口を取る考え方自体は理解できます。ですが、その出口価格が想定通りになるかどうかは別問題です。
仮に6年目に9,000万円で売却できたとします。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売却価格 | 9,000万円 |
| 購入価格 | 1億円 |
| 減価償却累計 | ▲6,000万円 |
| 帳簿価格(簿価) | 4,000万円 |
| 売却経費 | ▲360万円 |
| 譲渡所得 | 4,640万円 |
| 譲渡税(長期 約20%) | 約928万円 |
| ローン残高 | 7,960万円 |
| 売却後の手残り | ▲248万円 |
ここで気をつけたいのが簿価の考え方です。購入価格1億円から、これまで計上した減価償却累計6,000万円を引くと、帳簿上の価格は4,000万円になります。この状態で9,000万円で売ると、売却価格9,000万円から簿価4,000万円と売却経費360万円を引いた譲渡所得は4,640万円です。長期譲渡でおよそ20%の税率なら、譲渡税は928万円前後になります。
一見すると、1億円で買ったものを9,000万円で売るのだから損しているように見えます。ところが税務上は、減価償却で帳簿価格が下がっているため、売却益が大きく見えてしまいます。
この結果、売却時に手元に残るどころか、持ち出しになることもあります。この事例でも、売却価格9,000万円から諸費用、ローン残高、譲渡税を差し引くと、最終的にはマイナス248万円という計算になります。
「最初の還付が大きかったのは、将来の税負担を前倒しで軽くしていた面もある」——この事実が見えてきます。
IRRが高く見えても、そこだけで安心しないほうがいい
このケースを数字だけで追うと、4年間は税後キャッシュフローが大きく出て、最後に売却時のマイナスが来ても、全体のIRRは36%という試算になります。これだけ見ると、かなり魅力的です。今の時代に36%という数字だけを見せられれば、「これは買いでは」と感じるのも自然です。
ただ、この数字はあくまで前提が崩れなかった場合の話です。
・空室率10%で回ること
・想定家賃が維持できること
・大きな修繕が出ないこと
・売却価格が9,000万円で着地すること
こうした条件がひとつでも崩れれば、最終利回りは一気に変わります。
問題は、現実の不動産運用では、前提がそのまま続くほうがむしろ少ないことです。だからこそ、IRRが高いという理由だけで飛びつくのは危険です。とくに"節税目的で買う物件"は、投資妙味より税効果が前面に出やすく、肝心の不動産そのものの競争力が弱いこともあります。
本当に怖いのは、保有中のズレが積み上がること
収益物件の節税で見落とされやすいのは、保有中の小さなズレです。たとえば今回のように、駅から少し距離があり、築30年、しかも広めの2DKが8戸というような物件だと、家賃設定に無理がないか、空室率10%で本当に回るのか、慎重に見たくなります。
地方や郊外の物件では、表面利回りが7%あっても安心とは言い切れません。むしろ、築年数や立地の条件を考えると、もっと利回りが欲しいと感じる人も多いはずです。販売価格にすでに利益が乗っているなら、なおさらです。
さらに、部屋が広い物件は、家賃単価が伸びにくい一方で、退去時の原状回復費用や設備交換費用は重くなりがちです。水回りの交換、外壁、屋根、給湯器、共用部の修繕まで考えると、1回の出費で年間キャッシュフローが簡単に吹き飛ぶこともあります。
減価償却で戻ってきた還付金の印象が強いと、こうした日常の運営リスクを軽く見てしまうことがあります。でも、実際に収益物件を持つというのは、税金の話だけではなく、空室・修繕・賃貸需要との付き合いそのものです。
サブリースが安心材料になるとは限らない
空室リスクを気にする人に対しては、サブリース付きで提案されることもあります。たしかに、一定の賃料が入ってくるように見えれば安心感はあります。ただ、その安心感にも条件があります。
サブリースは保有中の空室リスクを見えにくくする一方で、売却時には買い手から敬遠されることがあります。次の買主が「自由に賃料を見直せない」「契約条件が重い」と感じれば、売却価格は下がりやすくなります。
しかも、売却時にサブリースを外せるかどうかは、その時点にならないと確実ではありません。最初の提案時に「将来は外せます」と言われていても、数年後に事情が変わっている可能性は十分あります。ここを軽く考えると、出口の想定が崩れやすくなります。
次の融資に響くこともある。1棟目の失敗が拡大を止める
もうひとつ見落としやすいのが、次の融資への影響です。節税対策として買った1棟目が、自分にとって本当にいい借入だったのかは、2棟目、3棟目を考える段階で見えてくることがあります。
築30年クラスの物件に長期融資を組み、しかも投資指標として微妙なものを個人名義で持っていると、金融機関からの見え方が変わる場合があります。本人は「節税のために買っただけ」と思っていても、次の融資を検討する側からすれば、「この条件の物件をその価格で買う判断をした人」と見られる可能性があります。
不動産投資は、1棟だけで終わる前提ならまだしも、多くの人は将来的な買い増しを意識します。そのとき、節税目的の1棟が足かせになるなら、本来の資産拡大という目的から遠ざかってしまうこともあります。
では、決算前に何を基準に判断すればいいのか

ここまで見ると、節税目的で収益物件を買うのは全部ダメなのかと思われるかもしれません。でも、そういう話ではありません。仕組みを理解し、保有リスクと出口リスクまで織り込んだうえで選ぶなら、ひとつの方法にはなります。
ただし、今の相場環境では、昔のように「高利回りの物件を節税も兼ねて買う」という感覚よりも、かなり慎重に見たほうがよさそうです。目先の還付だけで判断せず、家賃の妥当性、修繕負担、売却時の価格、次の融資余地まで含めて考えることが大切です。
そのうえで、決算対策としては、収益物件だけが選択肢ではありません。
| 選択肢 | 特徴 | 主なリスク |
|---|---|---|
| 収益物件(減価償却) | 大きな償却効果。還付も期待できる | 空室・修繕・売却価格・融資への影響 |
| 設備投資の前倒し | 事業に必要なものを今期中に導入 | 不要なものを買うと資金が消えるだけ |
| 即時償却・一括償却 | 今期にまとめて経費化できる可能性 | 制度要件の確認が必要 |
| 決算賞与・福利厚生 | 従業員への還元として意味づけしやすい | 支給方法・時期の整理が必要 |
| 保険・共済 | 中長期の資金設計として | 商品ごとに出口が異なる |
たとえば、収益物件のように運営や売却の不確定要素を大きく抱える方法とは別に、決算対策として情報整理しやすい選択肢を見ておきたいなら、こうしたページも比較材料になります。
👉 即時償却・一括償却の詳細はこちら
もちろん、これも何も考えずに選べばいいという話ではありません。ただ、比較の軸を持っておくことで、判断の精度は上がりやすくなります。
まとめ
節税目的で収益物件を買う話は、昔からある王道のひとつです。実際、減価償却が大きく取れる物件なら、数年間は課税所得を大きく圧縮でき、所得が高い人ほど還付の恩恵を感じやすいのも事実です。
【数字の魅力】
・築古木造は4年で償却でき、年間の経費インパクトが大きい
・高税率の人ほど還付額が大きくなりやすい
・保有中のキャッシュフロー+還付で、見かけ上の利回りは高くなる
【見落としやすいリスク】
・5年目以降、償却がなくなると課税所得が一気に増える(デッドクロス)
・売却時は帳簿価格が下がっている分、譲渡所得が膨らみやすい
・空室・修繕・サブリース・次の融資への影響まで含めると単純ではない
・IRRが高く見えても、前提が崩れれば最終利回りは大きく変わる
【決算前の判断】
・収益物件だけでなく、設備投資・即時償却・賞与・共済と横並びで比較する
・「何にリスクを取り、何にリスクを取りたくないか」を基準にする
ただ、その気持ちよさの裏には、空室、修繕、サブリース、売却価格、譲渡税、次の融資といった現実的なリスクが並んでいます。入口のシミュレーションがきれいでも、出口で崩れれば、思ったほど残らないどころか、判断を誤った物件を長く抱えることにもなりかねません。
決算前は、どうしても「今期いくら落とせるか」に目が向きがちです。けれど、本当に大事なのは、今年の税金だけではなく、その後の数年間でどう残るかです。収益物件を選ぶにしても、別の節税策を選ぶにしても、数字の見栄えより、実際に残るお金と身動きの取りやすさで判断したいところです。
節税は、うまくやれば確かに効きます。でも、効くことと、向いていることは同じではありません。決算前こそ、一歩引いて比べる視点を持っておくと、無理のない判断につながりやすくなります。


